僕ラブ16戦利品感想⑤

キミの目の前には雨空が広がっていて キミの歩んだ道は青空となる/koiwaslie/逢崎らいさん

個性豊かなAqoursメンバーの中でもひときわアクが強く、いつも何となく狂言回し的な立ち位置に当て嵌められることの多い、津島善子。堕天使ヨハネを自称する彼女の抱えた断絶と孤独、見ている世界の景色とその価値観を、丁寧でかつ、情感たっぷりに写し取った青春小説です。いやはや、何たる迫力。文庫本サイズで100頁に満たない手頃な量感ながら、読了後には持った手にずっしりとした重みを覚える秀作でした。
普通/特別、青空/雨空、内/外、明/暗、主体/客体、善子/ヨハネ、歩く道/歩いた道……無数の二項対立を盛り込んだ物語は、ですがその実、多くの事柄について書いている訳では決してありません。むしろ全篇を通じて、とあるひとつの感覚について繰り返し語り続けていると表現してみても過言ではないでしょう。幾重にもアングルやフォーカスを変えて語り直されていく言葉の連なりは、さながら次第に増幅され、より遠くにまで届いていくさざ波のよう。一部、脱字や独特の文章表現が円滑な読書体験を阻害してしまっている箇所はありつつも、大胆な改行を駆使した紙面に踊る文章は、決めどころでしっかりと決まる、シャープさとリリカルさとを兼ね備えたものばかり。些か俗っぽい表現をお許し頂くならまさにエモい、心の奥の柔らかな領域に、結末へ至るまで一文毎じわじわと突き刺さってくるような道行きでした。本当にワンシーンたりとも必要でない場面がない構成美には、思わずうっとり。
ともすると表層的な人物造形という観点では、原作での描かれ方とは若干の乖離があるように感じられるかも知れないですが。いや。道化を演じる彼女の奥底に、当然根差していてしかるべき薄暗さを掬い上げ、丹念に再構成と洗練を試みたこの筆致は二次創作としてあまりに真摯。作中で取り扱う人間関係をほぼ花丸のみに絞った作劇も英断で、難しいこと抜きに、一介のよしまる小説としての百合的な味わいにも非常に濃密なものがありました。はあ……尊い……。自覚と、対話と、少しの前進。青春劇に僕が求めるもの、すべてを原作の文脈上で描き切ってくれた力作でした。堪能しました。