僕ラブ16戦利品感想①

幾百億秒の呼吸/Airport Nonet/kosakiskiさん

恐らく本邦初のラブライブ!二次創作短歌集。取扱注意レベルのエモさのかたまり。作者さんのブログは以前から拝見しており、その細部まで考え抜かれ研ぎ澄まされた言葉の煌めきにいつも眩暈を起こしていたのですが、一冊の歌集として纏まると、これはちょっとモノが違いました。一冊読了するのに休憩を要すこと二回。それくらい強く、消耗するほどに心を揺さぶる歌集です。
門外漢が滅多なことを言うものじゃないとは思いつつ、やっぱり短歌って、五句三十一音という「縛り」の文学だと感じるんです。僕自身が試みているミステリという表現形式とも共通してくる話なんですが。おのずから「縛り」を設けた文学に挑む醍醐味とは、いかにして設定した「縛り」の範囲内に留まりながら「縛り」を超克した領域に手をかけられるか、ということではないでしょうか。この点についても『幾百億秒の呼吸』は物凄い。硬/軟、具象/抽象など様々な角度からアプローチが行われていく中で、僕が特に衝撃を受けたのが台詞形式で組み立てられた歌の存在でした。現代の短歌でこれがどこまで一般的な手法なのかは判じかねますが、僕の中に元々あった短歌へのイメージが一変するほど驚かされたのはひとまず事実で。更には台詞どころか会話形式になっているものまで! やばい! 無理! エモい!(語彙の消失)
また一冊を通読することにより、μ’sの辿ってきた物語をはじめから終わりまで改めて体験し直せる全体の構成も素晴らしい。終盤になってくると歌い上げられる心情が作中人物のものからコンテンツを楽しむファンのものへとシフトし始め、最終的には「彼女たち」と「僕たち」、どちらの立場に寄り添った歌なのかすら曖昧に溶け合っていく、このダイナミズムに涙しました。僕のオススメは一度順番通りに読んだあと、巻末から今度は逆順に読み直していくことです。味わい深さが更に増すこと請け合いですので、騙されたと思って是非お試しいただきたいところ。そしてこれは実際、イベント当日の打ち上げで少し試してみたのですが、何人かで鑑賞会をするのも本当に盛り上がります。作歌意図の解釈について意見交換するのはもちろん、黙読ではなく、音読することで受け取り方の変わる歌も数多く、また様々な発見が必ずあるはずです。
一冊目から長くなってしまいましたが、いや、本当に良い本でした(恍惚) 当日手に入れられなかった方も、作者さんのブログ( 「幾百億秒の呼吸」 http://svapna.hatenablog.com/ )で何首か読むことができますので是非そのエモさの片鱗に触れてみていただければと思います。
……ところで、この歌集を用いて百人一首みたいに歌がるたをやったら楽しいのではないか、という妄想が止まらないのですが。誰か!